はじめに

「自己を耕し、まだ見ぬ自分に挑み、次代へとつなぐ。」
 この言葉は、単なるスローガンではなく、創業期のメンバーがキャリアの中で直面した葛藤と限界、そして未来への強烈な危機感から生まれた実践知であり、私たちが大切にするPhilosophy(経営哲学)です。 これまでのキャリアで多様な実績を重ねてきたメンバーが、なぜ今、あえて安定を捨てて不確実な世界へと挑むのか。本記事では、取締役エグゼクティブパートナーの戸松 祐樹へのインタビューを通じ、その原体験とRubicon9の根底に流れる意志を紐解きます。
 
プロフィール
戸松 祐樹(とまつ ゆうき) Rubicon9 取締役エグゼクティブパートナー 国内大手ITインフラ企業を経て、アクセンチュアにて戦略事業の拡大や産学官連携を主導。業界横断で大規模案件をクロージングへ導くなど、多岐にわたる実績を持つ。2025年、Rubicon9取締役就任。現在は顧客企業の変革と事業強化を支援するプロジェクトを統括している。
 
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自己を耕す— 「やりきった」手触りが、プロフェッショナルの輪郭を創る

—Rubicon9のPhilosophy冒頭にある「自己を耕す」。戸松さんのキャリアにおいて、この言葉の原点となる経験について聞かせてください。
戸松: 私の原点は、華やかなプロジェクトの成功体験ではなく、むしろ20代半ばに心身ともに限界まで走り抜けた日々にあります。 当時は連日徹夜で朝まで業務に没頭し、わずかな休息でまた出社するという生活でした。現代においては推奨される働き方ではありませんが、当時の私にとっては必要なプロセスでした。
—そこまで駆り立てたものは何だったのでしょうか。
戸松: 「渇望」ですかね。当時の私は、自分に卓越したスキルや天才的なセンスがあるとは思えていませんでした。だからこそ、そのギャップを「圧倒的なコミットメント量」で埋め合わせようとしていたのかもしれません。 「必死に打ち込んでいないと納得できない。」「不格好でも、がむしゃらにやりきったと言える経験が欲しい。」 疲労困憊しながらも、その極限状態の中でしか得られない「手触り」のようなものを掴もうとしていたように思います。
—その経験は、現在にどう繋がっていますか。
戸松: 自身の「プロフェッショナルとしての輪郭」が形成されたと感じています。あの時、逃げ出さずにやり遂げたという事実が、困難に直面した際の確かな自信となっています。
 もちろん、現代において単純な「時間」や「量」で勝負することはナンセンスです。しかし、形は変われど、目の前の課題から逃げずに没頭し、最後まで思考し続ける胆力・姿勢こそが「自己を耕す」行為の本質だと確信しています。 私がその後、安定した大手ファームでのポジションを離れ、Rubicon9という「ゼロイチ」の環境へ飛び込んだのも、この延長線上にあります。誰かが敷いたレールの上ではなく、自分が根幹から関わり、創り上げたと言える経験。変化を恐れずに「新しい自分」に挑み続ける先にしか見えない景色があることを、過去の経験から感じ取っていました。
 

仲間を巻き込む— 「孤独なエゴ」から始まった、共鳴する求心力

—Philosophyでは「仲間とのつながり」も重視しています。若い頃からチームビルディングを意識されていたのですか。
戸松: いえ、かつては逆でした。「お客様の期待値に応え、圧倒的な成果を出せるのは自分しかいない」という、強いエゴと責任感だけで動いていました。 しかし、キャリアを重ねるにつれ、一人の人間ができることの限界に直面します。技術的な知見、リソース、アイデア……自分に不足している要素を痛感するたびに、社内外のパートナーや先輩・同僚に頭を下げ、知恵を借りるようになりました。
—「個の限界」を知ることが転機となったのですね。
戸松: そうですね。ただ、そこで重要だったのは、私自身が誰よりも当事者として汗をかいている姿勢を見せることでした。自分のためであれ、誰かのためであれ、必死に動く人間の周りには熱が生まれます。 「あいつがそこまでやっているなら」と周囲が手を差し伸べてくれる。皆が敬遠するような泥臭い仕事にも率先して関与することで、利害を超えた強固な信頼関係が形成されていく実感がありました。
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当時は「自身の成果のため」という打算的な動機も正直あったと思いますが、承認欲求や責任感を原動力に目の前の変化球を打ち返しているうちに、結果として強力なネットワークが構築されました。そこから、自分一人では到底たどりつけない全体最適の打ち手を提供できるようになりました。
 
 真のプロフェッショナルの価値は、個のスキルだけでは語れません。その「姿勢」そのものが触媒となり、組織や顧客、パートナーを巻き込み、大きな渦を作り出せる人間のことを指すのだと、私は思います。これが、Rubicon9が大切にする「仲間とのつながり」の本質だと考えています。
 

次代へとつなぐー AI時代における「暗黙知」の継承と、「想い」ある対応

—自身の経験を、次世代へどう継承していくか。特に効率性が重視される現代において、そのアプローチを聞かせてください。
戸松: 企業が永続的に価値を提供するには、属人的な暗黙知を組織知へと昇華させ、「次代へとつなぐ」ことが不可欠です。熟練のシニア世代が知見をブラックボックス化したままでは、組織の進化は止まります。私は今、自身がプレイヤーとして目立つこと以上に、次世代が活躍できる土壌を作ることに意義を感じています。
 では、かつて私が「圧倒的な時間と量」を投じて培った「場数に裏打ちされた直感」や「経験則」を、効率性が重視される現代の若手にどう伝えるべきか。ここで鍵になるのが「想い」です。
 現代ではテクノロジーの進化もあり、スキームやロジックそのものだけで差別化することは困難になってきました。違いが生まれるとすれば、相手に対する「想い」の総量です。 徹底的に相手の立場に立ち、想像し、準備し、ストーリーを描く。そうした「愛」とも呼べる向き合いの深さが、成否を分ける決定打になります。
 
—それをどうやって組織に浸透させるのですか。
戸松: かつての長時間労働による習熟は、物理的にも時代的にもベストとは言えません。だからこそ、私たちはAIを積極的に活用します。 膨大なケーススタディから勘所や重要ポイントをAIが抽出・整理し、それを若手が「疑似体験」として高速で学習する。過去の成功体験を単なる美談で終わらせず、現代のツールを用いて「言語化しにくいスキルセット」を翻訳し、渡していく。 ある種のお節介とも言える教育を、テクノロジーでスケールさせること。それもまた、Rubicon9における私の重要なミッションです。

変革へのジレンマ— 「社会関係資本」という見えざる資産への投資

—最後に、Rubicon9の展望について教えてください。
戸松: 私たちのパーパスは「常識を打破し、変革の火を灯す。」ことです。現在、私たちは既存のコンサルティング事業に加え、社会課題の解決を目指す新規事業にも熱量高く挑戦しています。
 既存のコンサルティング事業には、ある種の「勝利の方程式」が存在します。勘所を抑え適切にデリバリーすれば、短期的な収益は確実に生まれます。しかし、私たちが目指す「変革の火」を灯すためには、方程式の通用しない不確実な未来への投資が不可欠です。
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 勝ち筋がわからず、市場すら形成されていない場所での挑戦。そうして得た経験やネットワークは、金銭的な利益には代え難い「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」として、私たちの中に確実に蓄積されていきます。
 知識や知見が足りなくても、戦うフィールドも属性も異なる人たちの中で、真正面から向き合い、「想い」でぶつかり合う。そうして泥臭く築き上げた信頼や繋がりこそが、不確実な未来を切り拓く最強の武器になります。さらに、そうして得た社会関係資本は、回り回って必ず既存のコンサルティング事業にも「深み」としての還元をもたらすと信じています。整えられた正解をなぞるだけではなく、混沌とした場所で火を灯し続けること。それが、私たちRubicon9の覚悟であり、私がこの組織で挑戦し続ける理由です。

おわりに

 Philosophyは、額縁に入れて飾るための言葉ではなく、私たちが日々迷ったときに立ち返るための羅針盤です。今回は、戸松祐樹の視点からその輪郭を辿りました。メンバーそれぞれが見ている景色は少しずつ異なり、その多面性こそが組織の奥行きでもあります。私たちの旅路はまだ始まったばかりです。 戦略や技術では語れない、思想の重なりや「私たちはどうありたいか」という問いに向き合い続けること。今後も、Rubicon9のメンバーや社外の方との対話の機会を通じてお伝えしていきます。